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つくる よみがえれ!ものづくり力

いいづか・よしのり氏 1970年東京大学工学部計数工学科卒。74年同大学大学院修士課程終了。電気通信大学助手、東京大学工学部助手、講師、助教授を経て97年同大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻教授。工学博士。主な研究分野は品質マネジメント。元日本品質管理学会会長。2006年に「デミング賞本賞」を受賞。
成熟経済社会において、ものづくりに求められる「品質」とは、スペックや耐久性といった物理的特性を超えた、「顧客のニーズにかかわる製品の特徴の全体像」ととらえるべきだ。したがって「品質立国ニッポン」と言われ慢心していた高度成長期とは異なる戦略性を持ち、「新・品質の時代」を切り拓かなければならない。そのために何よりも必要なのは、ものごとを愚直に極めていく真理追求型ハングリー精神を取り戻すことと、競争力重視の視点を貫いた新たな品質マネジメントである。飯塚悦功・東京大学大学院工学系研究科教授は、ものづくりにおけるマインド面の強化によって「品質立国ニッポン」再生への道を切り拓こうと提唱する。
「品質」を語るときにはつくる側の勝手な定義ではなく、お客さまの視点に立った外的な基準で考えなければなりません。「品質」とは、その製品・サービスに対するニーズにかかわる特徴の全体像だからです。「品質」とは目的志向なのです。機能商品であったり、持っていることがステータスになるという目的もあるでしょう。いずれにせよユーザーは、自分のニーズを満たしているかどうかに関心があるのです。
品質管理のための基本的な考え方や方法論は様々なことに応用できます。例えばコスト削減とか短納期化という目的のために品質管理の手法が用いられました。それは「品質」抜きの品質管理であり、品質管理のドーナツ化現象と呼ばれたりしました。そこで1960年代に、品質中心の品質管理に回帰するために「品質保証」という用語がよく使われるようになりました。
もちろん品質管理の手法も時代とともに変化しています。1950、60年代は工程の条件と製品品質との関係を事実・データで把握して、不良を出さないための条件を探る統計的手法が盛んに使われました。これが有効だったのはスペックなどの目標が明確でそれを実現するための条件を明らかにしてコントロールできたからです。
「QC七つ道具」といって、ヒストグラム(度数分布図)や管理図などによる事実とデータに基づくプリミティブな手法、次にKJ法、連関図、系統図、マトリックス表など「新・QC七つ道具」を使う手法も生まれました。またFMEA(潜在的故障モード影響解析)、FTA(故障の木解析)といった予測手法も使われるようになりました。製造工程で品質をつくり込むために、その上流である生産準備、設計にさかのぼっていったわけです。
お客さまのニーズというと、「安くていいものを早く」というのが典型です。安く、早くというのはわかりますが、「いいもの」というのは何でしょうか。いろんなことをリサーチして、こういうものが、お客さまが求めている「いいもの」だと定義し、つくって使ってもらう、この活動が重要になっています。技術的に高度化、複雑化し変化も速くなっているので非常に難しくなっているのですが、お客さまのほしいものを提供することが「品質がいい」ということだと言う限り、これはものづくりの宿命であり、つくる側から常に提案していなければならないのです。お客さまがほしいものといっても、それが顕在化しているとは限らないから、潜在ニーズを掘り起こし、「こんな製品ができたのか」「こういう機能、使い方があったのか」と喜ばれるように提案するのです。別に市場調査をするのではなく、お客さまをよく見ることで気づくことがあるのですが、実はこれが品質追求では非常に重要で、もっと方法論として確立していかなければなりません。
現在のものづくりの一番の問題はマインドだと考えます。品質や改善への意欲が後退し、何をしていいかわからない、一生懸命やってもだめかもしれないと閉塞感が漂っています。とことんものごとを突き詰めず、「できない、売れない、もうからない」と、がんばらなくなったのですね。
高度成長期は団塊世代を中心に「一生懸命やれば、いい世の中になる」「いい暮らしになる」「偉くなれる」と、とにかく前に進んだのです。みんな貧乏で、がんばった人が上にいけると信じることができました。そういう社会では、とことん極める、徹底的にやる、もっと良くしようと改善をどんどん進め、それが品質をよくすることに効きました。ところが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか言われ鼻高々で慢心してしまったのですね。今はとりあえず生き延びるために賢く世渡りするだけで、愚直に追求していくハングリー精神が希薄になっています。
私は「品質立国ニッポン」の再生をめざし、「Q―Japan構想」を提唱しましたが、その柱の一つが「時代が求める精神構造の確立」です。高度成長期に持っていた「伝統的ものづくり能力」の再強化と同時に環境変化に対応した「新しいものづくり能力」の育成が必要なのですが、その能力とは自律型精神構造なのです。情報技術、物流技術の進歩とともに、激化する一方の競争の中ではリスクを取って先頭に立つ自律型の人間が不可欠です。自律型人間とは自らの価値基準を持ち、新しいことにチャレンジできる人間ですが、日本にはこういう人間は少なく、他律的傾向が強いのです。他者の基準で自らを測り、足らざる部分を嘆き、不屈の魂でそれを克服するというタイプですね。
しかし、これからの日本のものづくりは、後塵を拝するばかりでは立ちゆかなくなります。マインドを変えて定義能力、モデル構想能力を向上させなければなりません。国際化とは外国を受け入れることだと思い込まず、日本を売り込み、世界を日本色に染めるのも国際化だと考えるべきです。

欧米のものづくり品質に目を転ずると、提案型、つまりニーズに表面的にこたえるのではなく、「こういうものがいいのだ」とコンセプトをきちんと提示している企業が強みを発揮しています。コア技術をしっかり持ち、技術体系がしっかりしているのですね。高度成長期の日本は自分に技術がなくても、とにかくお客さまの方を向いてがんばるうちに技術力がついてきたという面があります。コンセプトを提示する、定義型のものづくりは上手ではないのですが、二番手三番手からワッと追いつくのが得意でした。
私は北欧のものづくりに注目しているのですが、彼らは高く評価してもらえる価値を提供することで国を成り立たせようとしています。高齢化では日本より先行しましたし、人口も少ないのでジャンジャン量産をめざすわけにはいきません。ですからIT関連などの様々な商品やシステム、あるいはビジネスモデル、サービスモデルがきちんとしたコンセプトで仕上げられ付加価値を高めています。日本もそういう「品質」を追求し、「新・品質の時代」を切り拓かなければなりません。
量産品は中国に行っても仕方がないのです。工業製品だからある程度の量はつくるのですが、個々のお客さまのニーズに合わせた対応、カスタマイズをしていくべきです。大量につくって安く売り、利益を上げる大衆品とは違うわけですから、「品質」の概念を変え、新たな能力、技術を注入しなければなりません。例えば失敗、手戻りの少ない開発が求められます。設計を何度もやり直していてはとてもコストが引き合わないでしょう。またこんな方法だとこんなことが起きるという予測能力を高めることも必要です。さらに設計検証能力、製品やサービスの評価能力の強化も求められます。
「Q―Japan構想」では「競争力視点での品質強化」も指摘しました。高度成長期に強くは意識していなかったけれど、品質が競争優位要因だったはずです。80年代半ばごろまでは良質安価な工業製品を大量に供給するための経営に直結していたからTQMが経営者を引きつけたのですが、バブル崩壊後、経営環境が一変してしまうとともに、TQMの求心力は低下しました。しかし、いま改めて競争力強化のための「品質」のとらえ直し、品質マネジメントの方法論の再考が必要になっています。特にQMS(品質マネジメントシステム)を自らが持つべき能力像を明確にして具現化するためのものにしなければなりません。競争力視点でのQMSへの指針となるのが2005年に制定されたJIS(日本工業規格)Q9005/9006です。ここでも組織としての優れた学習能力や組織自身を変えていく精神風土が強調されています。
学の立場で、われわれは日本のものづくりの課題に対する処方せんが導き出せるような組織論、運営論を体系化しますが、これを産業界が適用して新しい発見や例外事項があれば、それを取り入れたりカスタマイズするという相互作用が大切です。ですから企業は様々なノウハウを言葉にして体系化する能力、言い換えればモデル化能力のある人材を置くべきです。ノウハウを共有するために可視化し標準化するわけですね。産と学のこのような取り組みによって、新たな品質論、価値創出論が生まれ、ものづくりに貢献していくのではないでしょうか。

企業や組織における経営の質の向上に貢献する管理技術、経営手法。つまり、顧客の満足する品質を備えた製品やサービスを適切なタイミング、適切な価格で提供できるように、企業のすべての組織を効率的に運営して、企業目的の達成を図る体系的活動を指す。そのために目標とするのは、全員の取り組みによる、全部門、全プロセスでの品質向上活動、原価低減 、納期達成、安全確保、士気高揚、環境保全の向上など。
1960年代から日本で独自の発展を遂げたTQC(Total Quality Control=全社的品質管理)は、96年にTQMと呼称変更された。海外では一般的に「TQM」が使われており、TQCを経営環境の変化に対応できる活動にする狙いも込めた。
TQMは短期的に利益を増やすのが目的ではなく、改善の積み重ねで企業体質が強化されることによって、品質の良い製品、サービスが提供され、顧客満足が向上し、結果として利益に結びつくことをめざす。
戦後の日本に統計的品質管理を広め、日本製品の品質を世界最高水準に押し上げることに大きな貢献をした米国の品質管理専門家、故W・E・デミング博士の業績を記念して、財団法人・日本科学技術連盟が1951年に創設したTQMに関する顕彰制度。賞には、個人またはグループを対象とする「本賞」、企業または企業事業部を対象とする「実施賞」、事業所を対象とする「事業所表彰」がある。賞の審査・授与・運営は、第三者の立場から「デミング賞委員会」が行う。
日本工業規格の品質マネジメントシステム指針。1999年に実施されたTQM標準化ニーズ調査の結果を踏まえ、これからの品質マネジメント像を強く意識して作成された。
9005は「持続可能な成長の指針」。組織が存続するためには変化への対応が不可欠であり自らの強み、特徴を十分に認識し、これを活用しなければならない。顧客に提供する製品・サービスの質の改善・革新を図るためには品質マネジメントを自律的に構築すべきだとしている。9006は「自己評価の指針」。二つの規格はISO9004改訂のための重要なソースドキュメントと認められている。
1980年代の初めにはTQCの目覚ましい成果で世界の注目を浴びながら、1990年代には品質分野で求心力の低下をきたした日本が、変化への対応に焦点を当てた日本発の品質マネジメントシステム、JIS Q 9005/9006をISO9000のチャンネルで世界へ発信する動きとして注目される。
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